「マタイの福音書」連続講解説教

真の勝者は?

マタイの福音書第27章1〜26節
岩本遠億牧師
2021年8月15日

“さて夜が明けると、祭司長たちと民の長老たちは全員で、イエスを死刑にするために協議した。そしてイエスを縛って連れ出し、総督ピラトに引き渡した。

そのころ、イエスを売ったユダはイエスが死刑に定められたのを知って後悔し、銀貨三十枚を祭司長たちと長老たちに返して、言った。「私は無実の人の血を売って罪を犯しました。」しかし、彼らは言った。「われわれの知ったことか。自分で始末することだ。 そこで、彼は銀貨を神殿に投げ込んで立ち去った。そして出て行って首をつった。 祭司長たちは銀貨を取って、言った。「これは血の代価だから、神殿の金庫に入れることは許されない。」 そこで彼らは相談し、その金で陶器師の畑を買って、異国人のための墓地にした。このため、その畑は今日まで血の畑と呼ばれている。そのとき、預言者エレミヤを通して語られたことが成就した。「彼らは銀貨三十枚を取った。イスラエルの子らに値積もりされた人の価である。主が私に命じられたように、彼らはその金を払って陶器師の畑を買い取った。」


さて、イエスは総督の前に立たれた。総督はイエスに尋ねた。「あなたはユダヤ人の王なのか。」イエスは言われた。「あなたがそう言っています。」しかし、祭司長たちや長老たちが訴えている間は、何もお答えにならなかった。


そのとき、ピラトはイエスに言った。「あんなにも、あなたに不利な証言をしているのが聞こえないのか。」それでもイエスは、どのような訴えに対しても一言もお答えにならなかった。それには総督も非常に驚いた。


ところで、総督は祭りのたびに、群衆のため彼らが望む囚人を一人釈放することにしていた。そのころ、バラバ・イエスという、名の知れた囚人が捕らえられていた。それで、人々が集まったとき、ピラトは言った。「おまえたちはだれを釈放してほしいのか。バラバ・イエスか、それともキリストと呼ばれているイエスか。」ピラトは、彼らがねたみからイエスを引き渡したことを知っていたのである。


ピラトが裁判の席に着いているときに、彼の妻が彼のもとに人を遣わして言った。「あの正しい人と関わらないでください。あの人のことで、私は今日、夢でたいへん苦しい目にあいましたから。」しかし祭司長たちと長老たちは、バラバの釈放を要求してイエスは殺すよう、群衆を説得した。


総督は彼らに言った。「おまえたちは二人のうちどちらを釈放してほしいのか。」彼らは言った。「バラバだ。」ピラトは彼らに言った。「では、キリストと呼ばれているイエスを私はどのようにしようか。」彼らはみな言った。「十字架につけろ。」ピラトは言った。「あの人がどんな悪いことをしたのか。」しかし、彼らはますます激しく叫び続けた。「十字架につけろ。」

ピラトは、語ることが何の役にも立たず、かえって暴動になりそうなのを見て、水を取り、群衆の目の前で手を洗って言った。「この人の血について私には責任がない。おまえたちで始末するがよい。」すると、民はみな答えた。「その人の血は私たちや私たちの子どもらの上に。」そこでピラトは彼らのためにバラバを釈放し、イエスはむちで打ってから、十字架につけるために引き渡した。”
マタイの福音書 27章1~26節
聖書 新改訳2017©2017新日本聖書刊行会

前夜の私的な秘密裁判の結果(イエスの死刑)をローマ法でも死刑にしてもらえる形にするための手続きを行った。ここで正式のサンヘドリンが招集された。

ローマ帝国は、支配地の宗教問題を根拠には死刑を与えない。祭司長たち、民の長老たちは、イエスをローマ帝国に対する反逆罪で訴えた。

罪状: イエスが自らをメシア(=イスラエルの王、大祭司)と名乗っている。

ピラト:紀元26〜36年 ユダヤ地方(サマリヤとイドマヤを含む)のローマ総督
任務: 軍事力による秩序維持
税金徴収
裁判

ピラトの統治:残虐、腐敗が特徴
収賄、裁判なしの死刑執行など
ユダヤ人の宗教、歴史、国民感情に無関心
→ユダヤ人の宗教感情を逆撫でするような偶像崇拝行為の強行
→ユダヤ人やサマリア人の反発により、最終的に失脚

このイエスの裁判も、正義によって裁こうとしていたのではなく、政治的に利用しようとしていただけ。

ピラトは、ユダヤ人の指導者たちの訴えが妬みによるものであることを知っていた。イエスは反ローマ活動をしていない。
→それを逆手に取り、ユダヤ人指導者たちをやり込めようとした。
→イエスから、ユダヤ人の指導者たち(サンヘドリン)の訴えは虚偽であり、自分が反ローマ活動をしたことはないとの言葉を期待した。

ローマ法はユダヤの律法と共に、近代国家の法の基礎。
「自ら弁明する機会を与えられることなしに訴えられた者が裁かれてはならない」という規定。訴えられた者は、3度弁明する機会を与えられた。

さて、イエスは総督の前に立たれた。総督はイエスに尋ねた。「あなたはユダヤ人の王なのか。」イエスは言われた。「あなたがそう言っています。」しかし、祭司長たちや長老たちが訴えている間は、何もお答えにならなかった。

そのとき、ピラトはイエスに言った。「あんなにも、あなたに不利な証言をしているのが聞こえないのか。」それでもイエスは、どのような訴えに対しても一言もお答えにならなかった。それには総督も非常に驚いた。

沈黙を守るイエス
=死刑にし、あるいは、赦免を与えるローマの権威を全否定。悪魔に支配された者たちが行う裁判で、誰が真の統治者なのかを明らかにする

沈黙を守る=自らの意志で十字架にかかる。
十字架にかかる明確な目的がある。

イエスが反論しなければ、イエスに無罪判決を下すことができない。
→有罪とした上で、恩赦によって放免にする方策をとる。過越の祭りの時に一人の人に恩赦を与える慣習を用いる。

イエスの無罪を知り、それを政治的に利用しようとしたが、イエスに恩赦を与えることができないローマ総督ピラト
=沈黙する(=十字架に向かう強い意志の表明)イエスに圧倒されている。

選択肢を与える
=イエスの死に自分は責任を負わないというアリバイ作り

イスラエルの指導者たちがバラバを選ぶことは分かっていた。

バラバ・イエス

イエス=ヘブライ語はヨシュア(「主は救い)
      ありふれた名前
バラバ=「父の子」あるいは「先生の子」の意味
    →イスラエルの指導者の子供?
    ・ローマに対する反逆罪で死刑が確定

イスラエルが選んだ者
=バラバ・イエス
=剣を取って反ローマ活動を行ったイスラエルの悲劇の英雄

イスラエルが捨てた者
=イエス・キリスト
=貧しい者たちの友となって彼らに福音を語り、病める者たちを癒し、人に仕え、弟子たちには剣を捨てさせた神の子

イエスの裁判を政治的に利用しようとしたピラトの計略は失敗。
ピラトの妻からのイエス放免の懇願も水疱に帰す。

表面的には、イエスを反逆罪で訴えたユダヤ人指導者たちにピラトが負けたように見えるが、実は、主イエスが沈黙を貫き、イエス赦免の根拠を与えなかった時に、すでに主イエスの勝利が確定していた。

主イエスの勝利

ユダヤ人指導者たちによる夜中の裁判
→律法違反の偽の証言、しかし証拠が出てこない
→沈黙を貫く主イエス
→冒涜罪を捏造
→律法違反の罪はないのに死刑に定められる

ピラトの裁判
→対ローマ反逆罪で訴追
→偽の証言
→沈黙を貫く主イエス
→十字架刑の決定

主イエスの沈黙による戦い
=自分の義を主張させようとする悪魔との戦い
→沈黙によって悪魔に勝利
→悪魔に勝利した義なる方がご自分の血による罪の贖いを成し遂げる
→復活によって、誰が真の王なのかを明らかにする。
悪魔と悪魔に支配された世の権力者は、死によって神の民を支配しようとする。しかし、主イエスは復活して死による支配を打ち砕かれた。

主イエスはここまで見据えて戦ってくださった。勝利してくださった。

主イエスこそ真の王!ハレルヤ!

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