「ルカの福音書」 連続講解説教

神はあなたの本当の願いに答える

ルカの福音書第1章5節〜23節
岩本遠億牧師
2021年10月3日

“ユダヤの王ヘロデの時代に、アビヤの組の者でザカリヤという名の祭司がいた。彼の妻はアロンの子孫で、名をエリサベツといった。二人とも神の前に正しい人で、主のすべての命令と掟を落度なく行っていた。しかし、彼らには子がいなかった。エリサベツが不妊だったからである。また、二人ともすでに年をとっていた。さてザカリヤは、自分の組が当番で、神の前で祭司の務めをしていたとき、祭司職の慣習によってくじを引いたところ、主の神殿に入って香をたくことになった。彼が香をたく間、外では大勢の民がみな祈っていた。

すると、主の使いが彼に現れて、香の祭壇の右に立った。これを見たザカリヤは取り乱し、恐怖に襲われた。御使いは彼に言った。「恐れることはありません、ザカリヤ。あなたの願いが聞き入れられたのです。あなたの妻エリサベツは、あなたに男の子を産みます。その名をヨハネとつけなさい。その子はあなたにとって、あふれるばかりの喜びとなり、多くの人もその誕生を喜びます。その子は主の御前に大いなる者となるからです。彼はぶどう酒や強い酒を決して飲まず、まだ母の胎にいるときから聖霊に満たされ、イスラエルの子らの多くを、彼らの神である主に立ち返らせます。彼はエリヤの霊と力で、主に先立って歩みます。父たちの心を子どもたちに向けさせ、不従順な者たちを義人の思いに立ち返らせて、主のために、整えられた民を用意します。」

ザカリヤは御使いに言った。「私はそのようなことを、何によって知ることができるでしょうか。この私は年寄りですし、妻ももう年をとっています。」御使いは彼に答えた。「この私は神の前に立つガブリエルです。あなたに話をし、この良い知らせを伝えるために遣わされたのです。見なさい。これらのことが起こる日まで、あなたは口がきけなくなり、話せなくなります。その時が来れば実現する私のことばを、あなたが信じなかったからです。」

民はザカリヤを待っていたが、神殿で手間取っているので、不思議に思っていた。やがて彼は出て来たが、彼らに話をすることができなかった。それで、彼が神殿で幻を見たことが分かった。ザカリヤは彼らに合図をするだけで、口がきけないままであった。やがて務めの期間が終わり、彼は自分の家に帰った。”
     ルカの福音書 1章5~23節聖書 新改訳2017©2017新日本聖書刊行会

ヘロデ王の時代
ヘロデ王朝=ローマ帝国の傀儡王朝
ヘロデ大王=巨石建築に秀でた才能、外交手腕
         ローマ皇帝に取り入り、ユダヤ王の称号を受ける。
         ユダヤ人ではなく、イドマヤ人。
         猜疑心が強く、恐怖政治を行う。自分の権威をおびかやすと思ったら、家族も殺害。 

当時のエルサレム神殿=このヘロデ大王が建設

祭司=全てモーセ の兄アロンの子孫 全部で2万人ほどの祭司

24の組(氏族)によって構成 1組約700名の祭司  
  各々の祭司の組は、集団でユダヤ、ガリラヤ各地に居住。

年に2回1週間ごとに各組の祭司たちがエルサレム神殿で奉仕。

アビヤ組:4月中旬〜5月中旬、10月中旬〜11月中旬にそれぞれ1週間奉仕。

奉仕の内容:
聖所の外の務め:午前と午後の全焼の捧げもの、ハンセン病を癒された人々の清め、誓願期間を終えたナジル人の清めの儀式
聖所の中の務め=香を焚く=最も名誉ある務め
           午前と午後全焼の捧げものが捧げ終わる時

エルサレム神殿模型
エルサレム神殿内部

香を焚く務め:1日2人 年に28名の務め←くじで決める
ある組に1000名の祭司がいたとすると、36年に1回、一生に一度あるかないかの機会。

この時、ザカリヤにくじが当たった
ザカリヤ=祭司=初代祭司アロンの子孫
妻エリサベツ=祭司の家系

「二人とも神の前に正しい人で、主のすべての命令と掟を落度なく行っていた。しかし、彼らには子がいなかった。エリサベツが不妊だったからである。また、二人ともすでに年をとっていた。 」

彼が香をたく間、外では大勢の民がみな祈っていた。すると、主の使いが彼に現れて、香の祭壇の右に立った。これを見たザカリヤは取り乱し、恐怖に襲われた。

エルサレム神殿聖所想像図

御使いは彼に言った。「恐れることはありません、ザカリヤ。あなたの願いが聞き入れられたのです。」

ザカリヤの願い=祭司の継承者である男の子が与えられること。アロン以来の祭司の血統を守ること。
       
二人とも老人になり、子供が生まれる望みは消えていた。

御使いガブリエルが言う「あなたの願い」と「ザカリヤの願い」は同じものであったのか?

洗礼者ヨハネ

「その子は主の御前に大いなる者となるからです。彼はぶどう酒や強い酒を決して飲まず、まだ母の胎にいるときから聖霊に満たされ、イスラエルの子らの多くを、彼らの神である主に立ち返らせます。

彼はエリヤの霊と力で、主に先立って歩みます。父たちの心を子どもたちに向けさせ、不従順な者たちを義人の思いに立ち返らせて、主のために、整えられた民を用意します。」

メシア到来の道備えをする、最大の預言者となる。

洗礼者ヨハネは、祭司とはならなかった。結婚もせず、子も残さなかった。祭司の家系を継がせるというザカリヤとエリサベツの望みは絶たれた。

しかし、ザカリヤの真の願いは何であったのか?

神の民が悪魔の支配から解放されること=神の民の贖い

自分の子供がそのことのための道備えとして用いられる
預言者エリヤの働きを行うものとなる。

何によってそれを知ることができるでしょうか?
単に子供が生まれるということではない。
子供が生まれることは、数ヶ月以内にわかる。

ザカリヤの真意
=私も妻もその子がその働きをするようになるまで生きていません。私は何によってそれを知ることができるのか?
→この問いにザカリヤの真の願いが現れている。

御使いは彼に答えた。「この私は神の前に立つガブリエルです。あなたに話をし、この良い知らせを伝えるために遣わされたのです。見なさい。これらのことが起こる日まで、あなたは口がきけなくなり、話せなくなります。その時が来れば実現する私のことばを、あなたが信じなかったからです。」

罰ではない。誰の目にも明確な約束の印が与えられた。

やがてザカリヤとエリサベツは、生まれてくる子ヨハネを、祭司としてではなく、主イエス・キリストの先駆け、民の心を主に立ち帰らせる働きをする者として育てていく。

青年期に入ったヨハネは、祭司の家を離れ、死海のほとり、クムランでメシアを待ち望む禁欲的活動していたエッセネ派に参加。後に脱会、自らキリストを迎える道備えをする神に帰るための洗礼運動を展開する。

クムラン
エッセネ派の洗礼用プール

自分が意識する願いと自分の中に隠れている真の願い

神様は、私たちの真の願いに目を留めておられる

私たちは、神の臨在に触れられる時に、自分の中に隠れている真の願い(=神の子としての願い)を知る。

それは、肉の思いと対立するかもしれない。しかし、神様はこの真の願いを実現することによって、私たちを神の子として輝かせ、神の歴史を動かし、この地に神の国を造られる。

24 私たちは、この望みとともに救われたのです。目に見える望みは望みではありません。目で見ているものを、だれが望むでしょうか。

25 私たちはまだ見ていないものを望んでいるのですから、忍耐して待ち望みます。

26 同じように御霊も、弱い私たちを助けてくださいます。私たちは、何をどう祈ったらよいか分からないのですが、御霊ご自身が、ことばにならないうめきをもって、とりなしてくださるのです。27 人間の心を探る方は、御霊の思いが何であるかを知っておられます。なぜなら、御霊は神のみこころにしたがって、聖徒たちのためにとりなしてくださるからです。28 神を愛する人たち、すなわち、神のご計画にしたがって召された人たちのためには、すべてのことがともに働いて益となることを、私たちは知っています。ローマ人への手紙第8章

当時のイスラエルの時代背景について主に以下の書を参考にしました。
D. フルッサル、G. ショーレム他著 手島勲矢訳編『ユダヤ人から見たキリスト教』山本書店1986年
S. サフライ 有馬七郎訳『イエス時代の背景〜ユダヤ文献から見たルカ福音書〜』ミルトス1992年

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