ルカの福音書２章
岩本遠億牧師
2007年12月23日
2:8 さて、この土地に、羊飼いたちが、野宿で夜番をしながら羊の群れ
を見守っていた。 2:9 すると、主の使いが彼らのところに来て、主の栄
光が回りを照らしたので、彼らはひどく恐れた。 2:10 御使いは彼らに
言った。「恐れることはありません。今、私はこの民全体のためのすば
らしい喜びを知らせに来たのです。 2:11 きょうダビデの町で、あなた
がたのために、救い主がお生まれになりました。この方こそ主キリスト
です。 2:12 あなたがたは、布にくるまって飼葉おけに寝ておられるみ
どりごを見つけます。これが、あなたがたのためのしるしです。」 2:13
すると、たちまち、その御使いといっしょに、多くの天の軍勢が現われ
て、神を賛美して言った。 2:14 「いと高き所に、栄光が、神にあるよ
うに。地の上に、平和が、御心にかなう人々にあるように。」 2:15 御
使いたちが彼らを離れて天に帰ったとき、羊飼いたちは互いに話し合っ
た。「さあ、ベツレヘムに行って、主が私たちに知らせてくださったこ
の出来事を見て来よう。」 2:16 そして急いで行って、マリヤとヨセフ
と、飼葉おけに寝ておられるみどりごとを捜し当てた。 2:17 それを見
たとき、羊飼いたちは、この幼子について告げられたことを知らせた。
2:18 それを聞いた人たちはみな、羊飼いの話したことに驚いた。 2:19
しかしマリヤは、これらのことをすべて心に納めて、思いを巡らしてい
た。 2:20 羊飼いたちは、見聞きしたことが、全部御使いの話のとおり
だったので、神をあがめ、賛美しながら帰って行った。
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クリスマスを迎える礼拝をこのように皆さんと共に捧げることができ、
心から感謝いたします。一般的に、クリスマスというのはどういうイメ
ージを持たれているでしょう。クリスマスツリーと綺麗なイルミネーシ
ョン、温かな部屋、クリスマスディナーとクリスマスケーキ、そしてサ
ンタクロース。そこにあるイメージは、豊かさというイメージです。そ
して、このクリスマスのシーズン、人々は、豊かさの中に幸せを見出そ
うとしています。
しかし、最初のクリスマスは、豊かさということとは程遠い状況の中で
起こったということを私たちは心に留める必要があると思います。イエ
ス様は、ロバを繋ぐ洞穴のようなところで生まれたと言われます。取り
上げてくれる助産婦もなく、餌箱の中に置かれたのがイエス様です。こ
んなに貧しく、かわいそうな誕生はありません。そして、生まれたイエ
ス様のところを訪れたのは、羊飼いたちでした。
当時の羊飼いたちは、社会の最下層の人たちで、裁判を受ける権利さえ
制限されていた、言わば差別されていた貧しい人たちでした。裕福な人
たちは町の中で暮らしています。しかし、彼らは昼間は羊を草や水に導
き、夜は囲いの中に入れ、その門のない入り口に横になって羊を見守り、
盗賊や猛獣から羊を守っていました。聖書によると、イエス様がお生ま
れになったとき、天の使いが彼らのところに現れて、次のように言った
とあります。
「恐れることはありません。今、私はこの民全体のためのすばらしい喜
びを知らせに来たのです。 2:11 きょうダビデの町で、あなたがたのた
めに、救い主がお生まれになりました。この方こそ主キリストです。 2:12
あなたがたは、布にくるまって飼葉おけに寝ておられるみどりごを見つ
けます。これが、あなたがたのためのしるしです。」
「あなたがたのために、救い主がお生まれになった」と主の使いが言い
ました。「あの人のために」でも「その人のために」でもない。「あな
たがたのため」「あなたのため」と言われたのです。皆さん、どうでし
ょう。「人々のために救い主が生まれた」というのと、「あなたのため
に救い主が生まれた」と言うのとでは、随分感じが違いますね。「人々」
と言われると、「私は関係ない」とすました顔ができるのですが、「あ
なたのために」と言われると、「大きな御世話。ほっといて」と感じる
こともあるのではないでしょうか。それは、「あなたには救いが必要で
す」と言われているのと同じだからです。
しかし、羊飼いたちは、「あなたのため」「あなたがたのため」と言わ
れたときに、「そうだ。私には救いが必要だ。私には救い主が必要だ」
と思ったのです。彼らは、心の中に疼きを感じていたに違いありません。
人に捨てられた自分たち、誰も自分たちを認めようとしない。家族を持
つこともできない苦しさ。そのような苦しさの中にあって、彼らはいつ
か自分たちの救い主がやってくるのを待ち望んでいたのです。
主の使いは彼らに言います。「布に包まって、飼い葉おけに寝かされて
いるのがあなたがたの救い主だ」と。皆さん、皆さんは「救い主」とい
う言葉にどのようなイメージを持ちますか。病気からの救い、経済的問
題からの救い、人間関係のもつれからの救いなど、いろいろなものから
私たちは救われたいと思います。しかし、自分の問題の全てを解決して
くれる人というのであれば、自分の言いなりになってくれる神というの
に等しいかもしれませんね。神様を自分の召使にしたいと思っているの
です。
「救い」とは、私たちの実存が命の根源であり、私たちの創造者である
神様としっかりと結びついていることを言うのです。そのためには、私
たちと神様との間に立ちはだかる「罪」が取り除かれなければならない
と聖書は言うのです。「罪」が取り除かれ、罪の力が打ち砕かれる時、
私たちは神様との強い関係、永遠の絆の中に生きることができるように
なる。これが、私たちにとっての救いなのです。単に健康の問題が解決
するとか、経済的な問題が解決する、人間関係が回復するということで
はありません。勿論、そのような苦しみから解放されることも神様の祝
福に含まれますが、それと「救い」ということを同一視してはならない
のです。
聖書が「救い」という時、それは「罪からの救い」を意味します。イエ
ス様は、「ご自分の民をその罪から救う方」と言われました。
羊飼いたちが見た自分たちの救い主は、汚い家畜小屋の中にある餌箱の
中に寝かされていた新生児でした。羊飼いたちの社会的な問題、経済的
な問題などをその場で解決することなどできない、弱い姿で現れた生ま
れたばかりの赤ん坊だったのです。
しかし、羊と一緒に生活する羊飼いたちにとって、家畜小屋の餌箱に寝
ている赤ん坊は、遠い存在ではなかったでしょう。彼らは、自分と同じ
世界にやって来た神をそこに見たのです。天地を造られた全能の神が、
最も貧しく、惨めな有様で現れたのです。
町に住んでいる人々、王宮に住んでいる人々、豊かさと快適さの中に住
んでいる人々の中に生まれた赤ちゃんは、羊飼いたちの救い主となるこ
とはできなかった。羊飼いたちの心を開くことはできなかったでしょう。
私たちの救い主は、最も低くなって、全ての人の心にアプローチしてく
ださったのです。
しかし、どうしてこの弱い、小さな、惨めな姿で現れた赤ん坊が、罪か
らの救い主なのでしょうか。それは、この方が十字架の死をとげること
が、もうこの時から決められていたからです。地の基が置かれる前から、
この方が十字架にかかり、全人類の罪の贖いとなって、悪魔の力を打ち
砕くということが計画されていたからです。
ベツレヘムは、エルサレム神殿で捧げられる多くの羊たちを育てていた
ところです。ベツレヘムの羊飼いたちは、自分たちが命がけで育てた羊
たちが、全焼の献げ物として、また罪の贖いの献げ物として神殿で殺さ
れることを知っていました。家族のいない羊飼いたちにとって、最も近
い存在、家族のように愛し大切にしていたのがこの羊たちでした。しか
し、少し大きくなると、羊たちは連れられていく。羊飼いたちはどのよ
うな思いで羊たちを見送っていたのでしょう。
ひょっとしたら、イエス様をこの世に送られた父なる神様の心を誰より
も知っていたのが、この羊飼いたちだったのではないでしょうか。彼ら
は、貧しかったかもしれません。差別され、人に認められない苦しみ、
低められる苦しみを知っていました。しかし、父なる神様の心を知って
いました。人の罪の贖いのために愛する者を失う神様の心です。
豊かさとは対極にあるようなこのクリスマスの出来事。しかし、最愛の
独り子イエス様をこの地に送られた父なる神様のお心は、この羊飼いた
ちの心に届きました。羊飼いたちは、この惨めな誕生を迎えた男の子、
自分と同じ世界にやって来たこの男の子が自分の神となってくれたとい
うことを心に受け止めることができたのです。
イエス様は言われました。「幸いなるかな、心の貧しい人たち。天の御
国は彼らのものである」と。誰も満たすことができない心の裂け目、存
在の裂け目を満たし、癒すものは何でしょうか。御使いは言いました。
「布に包まって、飼い葉おけに寝ているのが救い主の印だ」と。あなた
は、この貧しい誕生を迎えた方を見て、何をそこに見るでしょうか。そ
こにあなたの救い主の姿を見るでしょうか。それとも、自分には関係な
いと思うでしょうか。
このクリスマスの時、布に包まって飼い葉おけに寝ているあなたの救い
主を探しにいきませんか。あなたにしか分からない苦しみがあるでしょ
う。人には分かってもらえない悲しみがあるに違いありません。しかし、
家畜小屋で生まれ、餌箱の中に寝かされた救い主には、あなたの心が分
からないでしょうか。この方を地上に送られた父なる神様は、あなたの
心に気付いていないでしょうか。
あなたは羊飼いたちのように貧しくないかもしれません。しかし、救い
を必要としていることに関しては、羊飼いと同じなのではないでしょう
か。この存在の裂け目を満たす方がいます。あなたも、布に包まって飼
い葉おけに寝ている救い主を、探しにいきませんか。
この方はどこにいるのでしょう。どこに行けば、この方に出会えるので
しょう。イエス様は言われました。「幸いなるかな、心の貧しい者。天
の御国は彼らのものである」と。むなしい心の中、誰も満たすことので
きないと思っていたところ。最も痛むところ。そこで布に包まれて飼い
葉おけに寝ている救い主に出会うことができるのです。
この方はあなたの心の中に生まれてくださるでしょう。この方の前に礼
拝を捧げませんか。賛美を捧げましょう。祈りを捧げましょう。感謝を
捧げましょう。あなたは、この方に出会うことができるのです。